9/03/2008

ニコン、血の一滴。

 カメラってのはよく判らない物で、カタログスペックだけではなんとも言い難い。例え同じ1200万画素のカメラでも会社や機種が変われば随分絵が変わってくる。下手すれば同機種でもロットナンバーで特徴が微妙に変わるくらいだ。それにもう一つ、レンズという要素が加わってくる。こいつも一本一本クセが違うから厄介だ。

 そういう不確定要素がタップリとあるものをカタログだけで評価するのはどうかと思い、今しがた梅田のニコンプラザでD90の実機を触ってきた。カメラはD3とD2HとD300とD200、それからD80しか触ったことの無い人間の、かなり主観が入ったレポートだけれど、観てほしい。


 まず手触り、D80と比べると少しだけしっかりした印象がある。私のデカイ手だとグリップした右手の人差し指がほんの数ミリあまるけれど、ほぼ万人にウケるグリップ感だと思う。少し力を入れただけで620gのボディがしっかりと固定される。軽くさばけるのはプラス。

 ボタン類の配置はほぼD80のそれで、逆にボタンの形状はD3ケタクラスに近い丸ボタン。小さなボディに多くのボタンを配さなくてはいけないので苦労した部分かと思うが、ボタンがほんの少し押し辛いと感じた以外は違和感無し。ただし押した時の感触はベコベコとしていて、少し安っぽい(樹脂製ボディのせい?)

 実際に撮影してみると、フォーカシングはさすがに早い。ただしこのニコンプラザというところは写そうと思えるような静物にこれでもかと光を当てているので、それだけ割り引いて考えるべきだろう。10万回耐久実証済みのシャッターユニットも、他のボタン同様軽くベコベコとしていて少し違和感を感じた。

 撮影時の各種設定操作はまさしくニコンの王道というそれで、ニコンのカメラを一台でもいじった事がある人なら(動画の操作以外は)5分くらいでマスターしてしまうだろう。色温度の設定もD200よりステップが細かくて好印象。

 撮影した画像を確認する液晶は大型化され、とても見やすい。ライブビューも初体験だったが、使い方によっては重宝する機能だ。細かい絵の特性まではさすがに判らなかったが、キットレンズでもそう変な絵は出てこないだろう。


 ただこのカメラにはニコンが持っているべき魂というか、そういうものが少し欠けているような気がしてならない。

 以前D3、D300のプロサービス向けのレクチャーをうけたのだけれど、D3はキャノンのプロ向け機種(EOS 1D MarkⅢ)を性能、価格両面で凌駕し、スポーツシーンにのさばる白い望遠レンズを駆逐せよという社長直々の命を受け、開発者が心血を注いで作ったカメラなのだそうだ。そしてD300はFXフォーマットのD3、DXフォーマットのD300、二つ肩を並べるフラグシップ機として、それにふさわしい性能を要求されたと聞く。今私が持っているD200にしても、ユーザーのニーズに応えるべく年月と情熱が注がれたらしい。ニコンのカメラには一つ一つ血と汗のドラマ、魂揺るがすエピソードが必要なのだ。

 しかしD90にはそれが感じられない。私の心の中の店員が「この性能でこのお値段ならお値打ちでしょう?」とささやくのだ。ニコンのカメラの値段はそのようには決まらない。「この性能をこのボディに詰め込んで、この機能とこの機能を入れ込んだらこの値段でしか出せません」という値段が、ニコンのカメラの値段のはずなのだ。勝手な思い込みと言われるとそれまでなのだが、そう思ってしまったのだから仕方が無い。


 動画撮影機能も予想以上のもので、カメラとしての性能も「お値打ち」だ。ただ私はパスしたい。やっぱり血の通ったカメラが欲しい。

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