11/03/2007

月光。

昼間はまだポカポカと温かいが、さすがに朝晩は冷え込むようになった。少し窓を開けただけで、肌を刺す冷たい風が入り込んでくる。大阪は空気が汚いから、あまり夜空は美しくない。この寒空に寂しげに、ただ月だけが浮かんでいる。それをあの子はどんな風に見つめているのだろうか。

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今から10年以上昔は、今よりもう少し寒さがキツかったような気がする。手をつなぐ時は手袋を外していたから、そう感じただけなのかもしれないけれど。パソコンの性能もしょぼかったし、コピーをとるのも味気ないからと、お気に入りのCDの歌詞は彼女が便箋に手書きで写してくれた。CDよりもその歌詞カードの方が大切だった。オッサンのような言葉だけれど、モノが無くても幸せな時代だった。

今の私はお気に入りにカスタマイズしたパソコンを持ち、値の張るデジタルカメラとレンズで撮った写真をファイリングしている。ケーブルテレビで気に入った楽曲を見つけると、高速回線で繋がれたネットの世界に出向き、それが誰のどんな曲なのかをすぐに突き止め、mp3で保存しては、気が向いた時に聞き入ったりする。深夜コンピニでアウェーのチケットを手に入れ、オーセンティックのユニフォームにタオルマフラーで出かけていく。仕事柄昼間の生活は限定されてしまうけれど、昔ほど我慢しなくてもしたい事がすぐ出来るようになった。それは感謝すべきことなのだろうけれど、何故だか妙に寂しい気持ちになってしまう。

最近になって、それはこれらが私にとって、あまり必要ないものだからなのだろうと思うようになった。そうでなければ、私は今のように自分のありようについて悩むこともないし、それで悶々とした時間を過ごす破目にもならなかったはずだ。


書くのが遅れてしまったけれど、私は神様なんて信じていないし、精神世界の云々という話はキライなクチだ。それでもあの子の冷たい手をにぎりしめた時に、ほんの僅か、何物にも代え難い幸せを感じていた事は、どれ程月日が経とうと、事実として記憶している。そんな小さな何かが、少しずつでも積み重なっていく事が、大枚をはたいて何かを買い漁ることよりも、ずっとずっと大事なのだと、32年もかけて、ようやっと思い知った。


おい、おまえ。こんなに冷たい空に、どうして寂しく一人でいるんだ?家に帰れば、まだ少しは温かいだろうし、誰かが待ってくれているんじゃないのか?ずっと一晩中浮かんでいるのだから、たまには早くあがってもいいよ。その代わり帰る時に、もしあの子を見つけたら、あの子にも温かい場所があることを、どうか教えてやってくれ。

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